世界に学び地域に還す,ものづくり環境教育 〜多文化共生・持続的社会の実現に向けた技術者の使命を学ぶための〜

富山工業高等専門学校と富山商船高等専門学校は、
2009年10月1日に高度化再編し、富山高等専門学校が誕生しました。

海外インターンシップ

インターンシップ実施までの現代GPの事業としての3年間の経緯と評価を報告する。
平成19年度
出張者
本江哲行,坂本佳紀,伊藤通子
日時
平成19年12月22日(土)~28日(金)
主な訪問先
内蒙古農業大学経済管理学院,オルドス市 環境局,内蒙古農業大学における環境教育フィールドの視察,内モンゴル自治区科学技術協会,内蒙古機電職業技術学院,社会教育団体「大地の子環境保護センター」
目的
 派遣先調査と受け入れ団体との打ち合わせのため,現地を訪問する。
調査結果
 本調査により,中国内モンゴル自治区を学生が訪問することは,次の点より技術者ESDとしての教育効果が期待できることを確認した。
  1. 経済成長が著しく,今後ますます,産業界の期待が高くなる中国を訪れることにより,世界の動きを肌で感じさせることができること。
  2. 中国内モンゴル自治区は,ESDがテーマとする現代社会が抱える地球規模の課題,すなわち,沙漠化,資源・エネルギー,公害などの環境問題,経済問題,民族問題などに直面しつつも,解決への努力を続けている地域であること。
  3. 学生が学ぶ環境として,気候,食事,衛生,治安,政治情勢,旅行用設備等において,他の発展途上国に比べて不安要素がほとんどなく,日本からの飛行時間や旅費,物価など,学生が参加しやすい旅程を組めること。
  4. 現地でのコーディネートを依頼する「大地の子環境保護センター」が,日本のJICAやNGOとのESDに関する事業実績があること。また,フフホト市を中心とする行政機関や大学等に強いネットワークをもつことが確認できたこと。
  5. 富山からの経由地の大連市は,学生の就職先となるYKKなどの富山県企業の進出も多く,環日本海地域としての産学官の交流実績も豊富であるため,学生の受け入れ先として適切な機関が多いこと。
平成20年度
出張者
栂伸司,坂本佳紀,伊藤通子
日時
平成20年8月18日(月)~8月25日(月)
主な訪問先
大連YKK株式会社,国菅奈曼旗 芳隆沼机械林場,フフロト湿原,固日班花 観光牧場,植林地 沙漠化進行地域,奈曼第五中学校,西湖,奈曼砂漠化研究所
参加学生
合計4名/専攻科2年男子1名(語学研修で英語圏に渡航経験あり),5年生女子1名(海外は初),4年生男子学生1名・女子学生1名(海外は初・語学研修で英語圏,ロシア語圏に渡航経験あり)
目的
 2年目となる平成20年度は,学生の募集を行い,ESDエコツアーとして試行することにより,学生への教育効果を確認する。
事業の評価
 ESDエコツアーとして募集をしたところ,単位化等の環境が整っていないにも関わらず,4名の学生が応募してきた。学年,専攻,男女比,海外経験の有無などの点で,バランスの良いチームとなった。
 4名の学生たちはそれぞれに,期待以上の学びを得たという結果となった。特に,語学研修で複数回の渡航経験をもっていた学生の感想が印象深い。
 「オーストラリアやロシアでは国際交流はできたが,地球規模のグローバルな課題を感じる経験はできなかった。それに比べて,内モンゴルへのツアーは,始めて世界を目の当たりにしたという強い印象が残った。今まで世界を先進国からだけの視点で見ていたことに気づいた。大連から内モンゴルへとバスで移動したことにより,いろいろな観点からの比較がしやすく世界の縮小版を実際に見て肌で感じた。」
 また,専攻科の学生の言葉も印象深い。
 「中国内モンゴルの状況は,あらかじめ情報としては知っていることばかりだった。しかし,実際に行って見て感じたことで,知識ではなく実感として多くのことを強烈に感じた。これからの自分の人生を考え直してみようと思う。もっともっと学びたいという気持ちに突き動かされている。」
 海外が初めてという学生は,次のような感想を述べた。
 「普通の旅行では行けないところに行きたかったが,不安が大きく海外(特に途上国)には行けなかった。今回,学校が企画したことで,保護者も安心して送り出してくれた。期待以上に,いろいろな経験ができて良かった。学生たちとの交流,農家のホームステイ,行政機関や学校,工場への訪問,モンゴル民族の方々の誇りに触れる様々な体験などとても充実していた。今後,ぜひ,1人でも多くの学生が参加できるようにしてほしい。」
 詳細については,学生が作成した資料等を参照してほしい。
平成21年度
 3年目となる平成21年度は,海外インターンシップとして2単位を取得できるという条件が整い,学生を募集したところ,4名の学生が応募した。
出張者
清水義彦,栂伸司,豊嶋剛司,高松さおり,伊藤通子
日時
平成21年8月5日(水)~8月15日(土)
主な訪問先
希喇穆仁草原 観光牧場,仏教寺院,草原の養羊農家,共青生態園基地,クブチ砂漠,チンギス・ハン陵,内モンゴル博物館,内モンゴル化学工業職業学院,大連YKK AP社・ジッパー社
参加学生
合計4名/5年生1名(男),4年生3名(男)
目的
 単位として認定された海外インターンシップを実施する。
内容
 4年生は海外インターンシップとして単位が認められることになったため3名の参加があった。
 今年度は,事前研修会(1回)と事後研修会(4回)の内容を充実させ,より高い教育効果をねらった。
事前研修
 訪問する内モンゴルでは,経済のグルーバル化に伴い,過放牧,土壌に合わない作物の栽培,地下水の過剰使用などの「持続不可能な開発」が続けられてきた。その結果,大地の沙漠化が進み,砂塵嵐による黄砂現象も加わって,住民の生活が脅かされているばかりでなく,その影響は地球規模に及んでいる。
事前研修では,以下のことを知り,出発前に考える機会を与えることを目的とした。
  1. 地球環境問題の一つである沙漠化が,グローバル化が進む現代日本に生きる自分たちの暮らし方や産業構造と深くつながっている問題であることを知ること
  2. このような問題の解決策には,唯一ベストな答えというものはなく,様々な視点をもつ全てのステークホルダーによる合意形成が不可欠であること
  3. 内モンゴルの人々がこれまでの「開発」の誤りに気づき,それに替わる開発の考え方や方法を自ら見出し,「持続可能な開発」への転換に取り組み始めていること
 以上のことを知った上で実際に現場を訪れることによって,将来の専門的職業人として各々の立場での「持続可能な開発」について考え始めることを期待している。
日時
7月18日(土)10:00~17:00
場所
本郷キャンパス オープンラボ2F
講師
森良氏 NPO法人 エコ・コミュニケーションセンター代表
参加者
学生5名,教職員7名
表1 事前研修の内容
内容 担当
挨拶 インターンシップの概要説明 丁子副校長
内モンゴルについて
旅行における諸注意
質疑応答
ECOM代表 森良氏
昼食
講義,ワークショップ
「内モンゴルから学ぶ持続可能な開発と私たちの暮らし」
<プログラム>
13:00 オリエンテーション
13:10 2班に分かれてグループワーク
1.内モンゴル住民の生活はなぜ持続不能になったのか。
(討論,発表・全体討議 各20分)
2.内モンゴルや日本を持続可能にする方策は。
14:30 休憩
14:40 ロールプレイ
「沙漠を緑化し貧困から脱出するための村の会合にて」
・役割(各2~3人ずつ,2人で会合で何を言うかを話しあってから模擬会合を行う)
・役割分担:貧しい農民,豊かな農民,村の役人,NGOメンバー,モンゴル族中学校の先生など
・準備(20分)→模擬会合(20分)→ふりかえり(20分)
15:40 全体のふりかえりとまとめ
ECOM代表 森良氏
平成20年度のツアーの様子,
アドバイスなど
昨年度参加学生 大角成市
出発までに行うこと 伊藤
事業の評価
 インターンシップとして植林基地を拠点に様々な活動を行う予定であったが,出発直前の現地の道路事情等により,植林基地の訪問が中止となり,大幅な計画変更を余儀なくされた。しかしながら,大地の子環境保護センターの協力により,植林活動や学生との交流など,結果としては充実した内容となり,平成20年度と同様,高い教育効果が得られた。詳細については,学生の発表用資料を参照していただきたい。
 今後に向けての課題は次の通りである。
  1. GP終了後,定常的な事業として教育活動に組み入れていく際の実施体制
  2. 直前の予定変更に対処するための,第2案の準備の必要性
  3. 体調管理の体制と準備
  4. 事前および事後研修会の充実
  5. 他の学生に対する学生の成果発表の機会の整備
 以上のように,いくつかの課題は残るものの,これまでの既存の学校行事等では得られないESDとしての教育効果が認められた。
 全ての学生が参加できる性質の事業には,すぐにはなりえないが,数名の学生が参加し,その成果を発表する機会があれば,参加できない学生にも地球的規模の諸問題に関心をむけるきっかけとすることができると思われる。
 高等専門学校で行う技術者のためのESDの一環として,通常の授業への導入と平行して,学校だからこそ提供できるこのようなエコツアーを継続していくことには,一定の意義が認められる。
‘09内モンゴルエコツアー報告
技術と国際的な課題
環境材料工学科4年 深江恒佑,熊本洋平 物質工学科4年 野尻悠貴
1.はじめに
 近年,我々の生活様式は,科学技術の発展により大変便利なものになっている。しかし,その一方では環境問題を引き起こし,また人種差別や異文化間の衝突,人権侵害といった社会問題の原因となっている。そこで,技術者は世界中の様々な価値観や文化を尊重することを通し,未来志向の環境調和や多文化共生の中で機能する技術を発展させることを目指している。
 我々の学校では,「持続可能な開発のための教育」(Education for Sustainable Development: ESD)を提言している。そして環境破壊をはっきりと認識し,世界中の人々と共に協働し,問題解決できるような技術者の養成を図っている。
 今回,ESDの一環として,2009年8月,中華人民共和国内モンゴル自治区を訪問した。内モンゴル自治区は,世界規模で進行しつつある環境問題のひとつ,「沙漠化」最前線の地であることで知られている。現地では,NPO「大地の子」のコーディネートにより,地元住民による,植林活動といった環境復元への取り組みに参加し調査することができた。また,「内モンゴル化学工業学院」を訪問し現地の学生と交流し,グローバルな環境問題や,共通の未来について議論することができた。
クブチ砂漠観光地区(左)/
植林された沙漠(右)

2.日程
 本海外インターンシップの日程を表1に示す。
 シラムリン草原では,モンゴル民族の伝統的家屋である観光用ゲルに宿泊し,乗馬やモンゴル相撲といった文化を体験することができた。また,ファームビジットでは羊の解体を視察し,民族が自然と共存する知恵を大切にしていることが印象に残った。
 内モンゴル化学工業学院では,異文化交流として,実際に学生と対話することができた。言葉が満足に伝わらない中でも,一緒に食事を取ったり,街を歩いたりすることで,互いに気持ちを伝えようとする姿勢に自然となっていった。スポーツを行うこともでき,貴重な体験となった。
 大連YKK社では,技術者が海外で活躍するためには,どのような能力が要求されるのかについて学ぶことができた。また,YKK社が地元コミュニティーと協同して発展していることを,工場視察とインタビューを行ったことで感じ取ることができた。
日付 内容
8/7 フフホト市→シムラリン草原
・環境破壊,住民の生活様式の調査
・NPOとの議論(沙漠化と国際協力について)
8/8 シムラリン草原
・遊牧民の伝統文化・宗教の調査
・NPOやモンゴルの人々と議論(技術について)
8/9 シムラリン草原→ オルドス市,クブチ砂漠
・農民の生活習慣の調査
・行政(環境局)との議論(植林について)
8/10 クブチ砂漠
・砂漠緑化基地での実習(植林活動)
8/11 オルドス市→ フフホト市
・精神文化の調査 (チンギス・ハン廟)
8/12 フフホト市
・モンゴルの歴史(内モンゴル博物館)
・国際交流と議論(内モンゴル化学工業学院の学生と)
8/14 大連市
・インターンシップ(大連YKK CO.LTD)
図2「電気自転車は本当にエコなのか?」

3.海外インターンシップを通して感じたこと
 現地では,沙漠化に対抗する手段のひとつとして,植林活動を体験した。しかし,そこには漢民族とモンゴル民族とでその認識に違いがあった。つまり,両者の間では,沙漠化の原因や解決策に対する捉え方が異なっていたのである。禁牧政策によって沙漠化を食い止めようとする政府の考えは,結果として,モンゴル民族の文化・生活を脅かしていた。そのため,モンゴル民族は民族としての誇りを保ちながらも,日本などの外部から技術協力や人的協力を受けつつ,自然と共存できる技術や知恵を活かすことで次の世代の暮らしや環境を守ろうとしていた。そういった姿勢から,日本人が学べることは数多くあると感じた。
 中国では,電気自転車を数多く見かけた。一見すると,それはエコな乗り物のように思えた。しかし後日,火力発電所を目にした際,「果たしてその電力はどこから供給されるのだろうか」と疑問に感じた。電力源が火力発電所から賄われるのであれば,結局は地球温暖化等の環境問題に繋がっているのではないだろうか(図2に示す)。科学技術は,電気自転車の例のように,表面的にはエコのように見えたとしても,社会的要因が絡むことで環境に悪影響を与えている場合があることにも気づいた。ある事象に対し,微視的な視点だけでなく,巨視的な視点でも捉え,その本質を見極めようとする意識こそが,技術者倫理の鍵であると感じた。
 技術を環境問題に適用するには,上記のように複雑な社会的問題を理解することが必要である。また,世界の多様な文化・生活を認識し,その地域に適した技術開発を行わなければいけない。自然と社会,そして技術が絡み合う現実を見つめながら,考え,そして多くの人と議論する重要性を強く感じた。
ポプラを植林している様子/遊牧民の気分で平原の中を乗馬体験

参考文献
HINAS,(2008) The human race’s challenge -Pioneers of Kubuqi desert engebe-
内モンゴル エコツアーで感じたこと
環境材料工学科5年 中村友一
はじめに
 今回僕は10泊11日の日程で,中華人民共和国内モンゴル自治区を訪れました。シラムリン草原と呼ばれる草原や植林基地など様々な場所を訪れたり,現地の学生と交流したりと,多くの体験や考えさせられることがありました。
1.砂漠化によるモンゴル民族の生活への影響
 シラムリン草原では,何千年もモンゴル民族は遊牧生活をしていました。しかし,近年,法律により遊牧も放牧も禁止されており家畜の数が年々減っているそうです。そこに住むモンゴル民族の方はゲルに観光客を泊めることで生計をたてており,今回は僕たちもそのゲルに宿泊しました。草原の中,モンゴル相撲をしたことは一生の思い出です。
 そこで見た果てしなく広がる大地の光景は今でも目に焼き付いています。ですが,ビンの破片がかなりの量で棄てられていたことが少し残念でした。また今回訪れたときは例年になく降雨量が少なく,とても草の丈が短かったそうです。もし今年のようなことが毎年続けばシラムリン草原では家畜は飼えなくなり,更に観光地としての魅力を失うため訪れる観光客の数は減り,そこに住むモンゴル民族の方は生きていくことが出来ないかもしれないそうです。
 現地を色々と案内して下さったチンゲルさんに「もし住めなくなったらここの方たちはどうなるのですか?」と誰かが質問したとき,たった一言「わからないです…」と言われました。そのときに感じたチンゲルさんの苦悩,悲しみが今でも忘れられません。
2.緑の素晴らしさと,根付かせるまでの大変さ
 植林基地では実際に植林された現場を歩きました。訪れた場所の土は砂浜の砂よりも細かく,木を自生させることはとても大変だろうと思いました。しかし植林された範囲は僕の想像以上に広く,どこまでも木が生えておりとても驚きました。ところどころ植林された木の種から生えだした若木がみられ,生命の力強さを感じました。植林されている部分と沙漠部分の境目まで行ったときに感じた生命力の歴然とした違いは印象深いものでした。また沙漠を歩く機会がありましたが,とても暑くて歩きづらく,そんな場所でも,人の情熱と技術力と資金があれば,木が生えるということに感動しました。
 実際に僕たちは植林させてもらったのですが,さらさらの砂の中に木を倒れないように植えるのはとても大変でした。さらに,きちんと水やりをしても2~3割の木々は枯れてしまうというらしく,植林は植えるだけでも重労働なのに,根付かせるのも大変なのだと痛感しました。
3.言葉を越えた交流の大切さ
 内モンゴル自治区の工業系の学校も訪れました。そこでは僕と同年代の学生が,僕と同じように勉学に日々いそしんでいました。学生たちとは片言の英語でコミュニケーションをはかりましたが,やはりお互いに母国語でない言語で話すのは難しく,中々意思の疎通がとれませんでした。しかし,彼らと一緒にバスケットボールをしたとき,言葉がわからなくても心のどこかで理解し合えたような気がして,何とも言えない高揚感を感じました。他にも一緒に学校の食堂でご飯を食べたり,学校の近隣を歩いたり,寮を見せてもらったりと彼らは日本から来た僕たちにとても親切にしてくれました。外国での僕たちと似たような境遇に置かれている学生との交流はとても新鮮なものでした。
4.おわりに
 内モンゴルツアーでは様々な出会いや体験がありました。それは日本では知ることのできない異文化の中で,地球環境問題を実際に目で見て触れる体験や,価値観や思想の全く違う人々との交流といったもので,僕にとっては非常に濃密で充実したものでした。海外に行くと視野が広がるという話を行く前に聞いたのですが,今回の訪問でその意味が分かりました。
2010.3.31