世界に学び地域に還す,ものづくり環境教育 〜多文化共生・持続的社会の実現に向けた技術者の使命を学ぶための〜

富山工業高等専門学校と富山商船高等専門学校は、
2009年10月1日に高度化再編し、富山高等専門学校が誕生しました。

平成21年度現代GPフォーラム

世界に学び地域に還す、ものづくり環境教育
~多文化共生・持続的社会の実現に向けた技術者の使命を学ぶための~
日時
平成22年3月5日(金)13:00〜17:00
会場
名鉄トヤマホテル
参加者
40名(教職員30名,講師・外部参加10名)
1. 目的
  1. パネルディスカッション形式により,環境教育,グローバル企業,技術科学大学との連携,「地球ラボ」,海外インターンシップの5つの視点からの総括評価を受ける。
  2. 富山高専におけるESDの今後について,ESDにおける世界の動きや高等教育機関のあり方という,より広い視点からの講評を受ける。
2. プログラム
時間 プログラム 出演者
13:00 受付・開場
9:30 開会挨拶 富山工業高等専門学校長 米田政明
13:05 富山高専の現代GP取り組み報告 13:05~13:15 「富山高専のESD概要」 丁子哲治
13:15~13:30 「ESDのための教材開発」 成瀬喜則
13:30~13:45 「海外インターンシップ」 坂本佳紀
13:45~14:00 「既存授業へのESD導入」 畔田博文
14:00 ポスターセッション
14:30 パネルディスカッション
「富山高専ESDの総括評価」
コーディネーター:上坂博亨氏
パネリスト:川原辰雄氏・青木伸一氏・青柳成俊氏・川崎仁晴氏
15:40 休憩
15:45 講評 「ESD,世界の動きから見た富山高専の取り組み」 佐藤真久氏
16:15 休憩
16:20 講評 「ESDの先駆者としての高専に期待する」 遠藤一太氏
16:50 まとめ 「富山高専における技術者ESDのこれから」
現代GP実施特別委員会委員長 丁子哲治
17:30 交流会
3.内容
ポスターセッション

 開会にあたって富山高専の米田政明校長が「当校の現代GPは平成21年度が最終年度となった。この成果をカリキュラムに取り入れ,平成22年度以降も『富山高専型ESD』として実践していきたい」とあいさつした後,担当教員がGPの取り組みを報告した。
 現代GP実施特別委員長の丁子哲治副校長が本GPの概要と特徴について説明を行い,成瀬喜則副校長はロボットカー(コンピューター付き電気自動車)などの教材開発の狙いや効果について,坂本佳紀准教授は中国・内モンゴルで行った海外インターンシップ,また畔田博文准教授が既存授業へのESD導入について,それぞれ報告した。
 引き続き,会場内では,ポスターセッションが行われ,来場者との間で,活発なやりとりが行われた。
 ポスターセッションに続き,パネルディスカッションと2人の講師による講評により,本GPの3年間の取り組みに関する総括評価が行われた。以下に,パネルディスカッションと講評の要約を報告する。
パネルディスカッション「富山高専ESDの総括評価」
コーディネーター:
上坂博亨氏(富山国際大学子ども育成学部教授,本GP専門委員)
パネリスト:
川原辰雄氏(YKK株式会社経営企画室黒部広報・渉外担当,本GP専門委員)
青木伸一氏(豊橋技術科学大学学長補佐・高専連携室長)
青柳成俊氏(長岡工業高等専門学校教授・国際交流推進センター長)
川崎仁晴氏(佐世保工業高等専門学校電気電子工学科教授)
上坂氏

川原氏

青木氏

青柳氏

川崎氏

上坂 本GPがスタートした平成19年度に富山高専の先生らとデンマークを視察した。デンマークのエネルギー自給率は1973年に2%しかなかったが,オイルショックの教訓から国として産業を興し,エネルギーを自給するために国民を育てた。その結果,1990年代に100%の自給率を達成した。その後,さらに自給率を150%以上に高め,隣国に輸出するまでになった。それに比べて日本は,1970年代の4%程度から今も変わらない。
  この様に国民を育てるデンマークにおいてどのような教育がなされているのか知りたいと考え,小学校を視察した。小学校から英語,中学校から第二外国語のドイツ語を教えているが,理科と社会はカリキュラムにない。その代わりに「生活」とか「総合」という時間をたっぷり取り,校外学習などさまざまな体験を通じながら,しかも体系的に学習している。生徒が自ら学ぶようにする工夫は,PBLの手法を取り入れていると言える。大変参考になった。
川原 私は11年間海外で暮らした。その後,20年ほど前から富山で暮らし,会社の業務の関係で地域活動に携わってきた。その体験を通して得たことは,会社や学校は地域社会の一員であり,地域社会ときちんとコミュニケーションをとっていかないと,会社も学校も立ち行かないということだ。コミュニケーションの大切さを理解しているか否かによって,会社や学校のミッションを効率的に叶えられるかどうかが決まってくる。
  大切なことは,異なる価値観が交じり合い,互いに議論することによって,意思疎通が図られるだけでなく,新しい創造物が産み出されるということだ。そのような場を若い人に積極的に提供し,地域と一緒に新しいものを作り上げる意義を知ってもらいたい。富山高専のESDをさらに深化させ,学生が地域の意見を聞いて自分で消化する力を高めていけば,富山高専はさらに価値ある教育機関になるだろう。
青木 富山高専の現代GPは,教材開発のロボットカー,海外インターンシップの内モンゴルエコツアーにESDの共通的要素を取り入れようとしている点が素晴らしい。プロジェクトに終わらせず,文部科学省にもっとアピールし,文科省の手法を変えるくらいにまでに内容をさらに深めていただきたい。
  高専から大学へ編入する学生が増えているが,技術者を育て上げるには,高専の先を見据えた教育が求められている。環境教育や受験英語でない勉強を続けてきた学生への英語教育など,高専と大学の連続的な教育が必要ではないか。一方,PBLは時間がかかる手法であるため,専攻科から大学院に進む学生の中には基礎的な面が弱い者もいると聞いているので,専門性を伸ばす教育方法を検討してほしい。また,不便さが技術開発の意欲を生んできたのではないか。丁寧に教え過ぎるあまり,全てを与えてしまうと教育効果が薄れてしまう恐れがある。
青柳 長岡工専は平成19年度に学生支援GPが採択されたのを契機に,異文化理解の教育を進めるための「地球ラボ」を学内に設置した。21年度からは国立高専機構の研究費で継続しているが,富山高専の洗練された方法に学んで長岡も真似しなければいけない点が多くあった。
  一つの高専だけで進めるには限界があり,他の高専や大学と連携すれば違った展開が見えてくるだろうと考えている。まずは五つの高専による中部日本海高専連携の国際交流検討部会を軸に連携を進めていきたい。
川崎 佐世保高専の現代GPでは,北京大学など中国の高等教育機関と交流協定を結び,学生同士の相互交流を進めている。技術面での交流を前提にしており,文化交流だけでなく,専攻科の学生によるインターンシップを行っている。これに参加した学生は大きく成長して帰ってくるので,その効果は実感している。
  学生たちがまずショックを受けるのは「日本とは常識が違う」という点だ。文化や宗教の違いだけでなく,欧米では名前の呼び方も違うなど戸惑うことが多い。学生たちは,技術交流を進めるには,常識や立場の違いを乗り越えること,あるいは使い分けることの必要性を感じている。日本の学生として,日本文化を正確に知ってこそ他国の文化も理解できることも学んだようだ。
上坂 PBLに対する問題提起も出されたがこれに関するご意見を頂きたい。
青木 私たちが学生のころは,PBLが行われていなくても,学生がコミュニケーションできないとか,関心を持たないことはなかった。それらは自然に体得したものだ。PBLは学生にも好評で,必要なものだと思うが,「教える必要がある」という状況の背景に何があるのかが問題だ。
青柳 PBLを進めるうえで,学内の教職員全体に交流マインドを浸透させる必要があるのでないか。富山高専のように,日本文学や歴史,倫理など一般教育科目で展開させるのは良いことだと思う。
上坂 会場の皆さんからご意見をいただきたい。
米田(校長) PBLについては「手取り足とり教える必要があるのか。分からないままに自分で考えることも必要だ」という意見もある。昔のように「子は親の背中を見て育つ」という考え方が,今では通用しなくなった。なぜPBLが必要かという疑問は極めて重要な問いかけだ。
上坂 ありがとうございました。
講評
講評「ESD,世界の動きから見た富山高専の取り組み」
講師 佐藤真久氏(東京都市大学環境情報学部准教授)
佐藤氏

 バルト海沿岸地域の環境ネットワーク(バルチック21)のバルト海地域大学プログラム(BUP)が開発したESD配慮項目11要素を援用し,文科省に採択された24大学の現代GPについて報告書やホームページの文章を分析した。
 その結果,対象大学のESD関連プログラムの半数以上が,「背景」の視点から分類した要素である「統合的手法」,「時間的見解」,「空間性」を含んでいることが分かった。一方で,「内面的側面」の視点から分類した要素(「価値の明確化」,「体系的思考」,「批判的反省」など)が圧倒的に少ないことも判明した。
 これに対して富山高専の取り組みは,大学のプログラムに多く含まれている「統合的手法」などの要素はもちろん,環境技術,東アジアとの連携,国際ビジネス,文系と理系の融合とのつながりの中で,「内面的側面」に属する「倫理」,「価値」などや,「活動」の視点から分類した要素の「参加」についても深く理解し,的確に表現されているのが特徴である。
 これらの特徴をもっとアピールし,教育の面でしっかり実践していくことによって,富山高専の取り組みは高専のESDの展開において日本のドライビングフォース(牽引車)になるのではないか。
講評「ESDの先駆者としての高専に期待する」
講師 遠藤一太氏(呉工業高等専門学校長)
遠藤氏

 富山高専の取り組みについては,環境教育や国際的視野の育成に精力的に取り組んでいるとの感想をもった。教育方法についても,従来の座学を超え,ワークショップ型授業や実体験型授業を積極的に取り入れており,高く評価したい。ただ,省資源と省エネルギー教育だけではESDとしての資源エネルギーの教育とは言えない。近県である岐阜県の神岡鉱山やニュートリノのカミオカンデを活用し,資源の枯渇の問題や弱体化している原子力教育についての取り組みを深めてもらいたいと思った。
 高専が技術者教育機関におけるESDの世界的先駆者となりうることを確信している。その中で特に富山高専には,高度化再編を目指した長年の努力と再編後の人員配置の弾力性を生かした現代GPが今後も継続し,定着させることを望んでいる。
まとめ
まとめ「富山高専の技術者ESDのこれから」
富山工業高等専門学校副校長・現代GP実施特別委員長 丁子哲治
 富山高専型ESDをめざして無我夢中で現代GPに取り組んできた。学科の構成や専攻科の拡充のほかに,目玉となる組織として地域連携のための地域人材開発本部を設置し,その下には三つのセンターを置いて目的達成に邁進している。
 富山高専のこれからは,ESDの継続にほかならない。今後は,国際インターンシップの単位化,既存授業へのESD導入を実現し,4月からの新カリキュラムでもESDを展開していきたい。
2010.3.5