世界に学び地域に還す,ものづくり環境教育 〜多文化共生・持続的社会の実現に向けた技術者の使命を学ぶための〜

富山工業高等専門学校と富山商船高等専門学校は、
2009年10月1日に高度化再編し、富山高等専門学校が誕生しました。

授業へのESD導入:専攻科特別実験へのESD導入

日時
平成19年4月1日(日)~平成22年2月26日(金)
場所
本郷キャンパス オープンラボ,実習工場工房,各事業所
履修学生
機械・電気システム工学専攻,機能材料工学専攻1年生 約20~40名(年度によって学生数が変わったため)
科目名
前期:専攻科特別演習 後期:専攻科特別実験
担当
本江哲行(19年度~21年度)
岡根正樹(19年度)
森田康文(20年度)
豊嶋剛司(21年度)
島 政司(19年度)
伊藤通子(19年度~21年度)
今井英之(19年度~20年度)
上堀博之(19年度~21年度)
小澤妙子(21年度)
時間数
前期:100分×2コマ×15回 後期:100分×2コマ×15回
目的および内容
1. 目的
 持続可能な社会構築を担う専門人材の育成に関するビジョン「環境省 アジア環境人材育成イニシアティブ」には,以下のように述べられている。
 環境人材が身につけるべき知識体系としては,図1に示すとおり,専門分野―たとえば,法学,経済学,工学等―の知識を,縦軸としてしっかり身につけ,横軸として,環境・持続可能性という分野横断的な知見を獲得し,鳥瞰的な視点あるいは俯瞰力も備えて,自らの専門分野に環境・持続可能性の視点を内在させるような素養を身につけていること。
 また,その育成手法については図2のように示されている。
 環境人材を育成する手法としては,従来からの知識伝達型の教育では,十分とはいえず,具体的な事例をとりあげたディベートやケーススタディなどの参加型の教育が望まれる。また,教室の外での実地研修やインターンシップ,学生環境団体等での実社会での活動を通じて,職業との関わり,構想力,合意形成能力を養うことも求められるが,現在は,このような教育手法は十分には行われていない。これらの背景には,以下の3点が大きな課題として考えられる。
  1. 参加型学習等の実践的な人材育成ができる指導者が不足していること。
  2. インターンや実地研修の受入体制が整備されていないこと。
  3. 大学が外部の組織と連携していくためのマッチングの負担が大きいこと。
 専攻科へのESD導入では,T字型知識体系を考慮すること,特に課題1および3として挙げられている点を解決することを念頭におき,教育プログラムの開発を目的とした。
 本教育プログラムの目標は次の通りである。
  1. 技術者になるための学ぶ意欲を高める。
  2. 高専での学びと技術者の専門職としての社会的使命が結びつく。
  3. 専門的知識を統合し活用することで,問題解決力や課題探求力(批判的で高度な思考をベースとする)を育成する。
  4. 自己主導学習力(自己の学習をデザインし,継続して実行する),評価能力(自己の客観的評価を行い,統合化,一般化して次に生かす)を育成し,学び続ける姿勢を育む。
  5. 技術を取り巻く社会環境を考える姿勢や,技術者としての誇り,基礎的な社会性と技術者マインドなどの総合力を育成し,将来への勤労意欲を喚起する。
図1 望ましい内容 ~T字型知識体系~

図2 望ましい手法・場所 ~参加型,問題解決型,現場活用型~

2. 教育プログラム作りの視点
 教育プログラムの教育手法は,主にProblem-Based Learning(PBL)とし,問題発見,探求,解決型学習として次の視点を盛り込んだ。
  • 実社会の構造化されていない問題に取り組む
  • 身近な社会問題に当事者として関わる
  • 実社会における技術者としての社会的責任や役割,期待を知る
  • 分野や専門が異なる人との合意形成や交渉などに対するコミュニケーション力の育成
 具体的には,地域社会のいろいろな問題を,技術系以外の人たちとのコミュニケーションを通していっしょに解決していく「地域に役立つものづくり」を通し,技術者としての総合力を育成することをめざした。
 まず専門の異なる学生同士でプロジェクトチームを組む。そして,地域の福祉施設や保育園,農場,環境教育自然学校等に出かけ地域の人々と交流することにより,その人々が抱えている問題を見つけ出す。その問題の解決を目指して,創造力を発揮しながらものづくりをすることで,それぞれの事業所の社会的ミッションに沿って,地域の一員として,技術的な面からの社会貢献を体験する。このような経験が,社会の中で技術者が果たす役割を考え,技術発展の方向性を探るための広い視野を育むことにつながると考える。
 図3に,授業の概略図を示す。
3. 内容
 学生は地域の保育園,有機農場,デイサービス福祉施設,県青少年自然の家などへ出向き施設の活動状況や社会的ミッション等について調査した。調査の過程で,施設の職員や利用者らとの交流,観察,ヒアリング等を通し,自分たちが取り組むべき課題を見出した。
 課題の解決のための具体的な方策(技術力でその活動を支援するためのものづくり)を考え,様々な形式のディスカッションを繰り返しながら,製品の開発・製作・改良に取り組んだ。
 平成20年度の活動を表1に示す。ESDとして,平成19年度より改良を加えながらこのような型になり,平成21年度も同様に実施した。
 平成20年度の学生による製作物は次の通りである。
  1. 有機農業用の田で働く「一輪水田攪拌ロボット“あめん坊”」
  2. 水力を利用したエネルギー環境教育教材「水力オルゴール」
  3. 保育園児用の異文化理解教育のための「世界文化紹介ドールハウス」
  4. 保育園児用の多人数で遊べるユニークな遊具「消防車型水鉄砲」
  5. ディサービス用のコミュニケーション向上のための遊具「電子ルーレット」
  6. アフリカ・マラウイの木工専門学校用の教材「ナイスないす」
4. 評価
 PBLの特徴である「学習のプロセスに組み入れる評価」を重視した。評価主体別には,自己評価,指導者評価,学生間相互評価,地域の方からの評価を行った。学習の進行に伴って,診断的評価,形成的評価,総括的評価を,ジャーナル形式,ポートフォリオ形式,ヒアリング,振り返りなどの方法で行った。
○学生の達成度の評価
 学生の能力の達成度は,学生が習得すべき具体的な能力を挙げた評価シートを作成し,2回の中間発表会及び最終的な成果発表会において,全ての参加者に評価してもらった。
○学生自身による自己評価
 第1回,第2回の中間発表の時点と第3回の最終発表会が終了した時点に,それぞれの達成度に対する自己評価を行った。自己評価のための評価シートを種々開発した。
○ヒアリングによる総括的評価
 成績をつけるための総括的評価は,ヒアリング形式で行った。1チーム全員のヒアリングを行ったが,予定していた20分では足りず,各チーム30~40分程度のヒアリングとなった。21年度は1時間とした。
 達成度評価,自己評価等,種々の評価の結果を総合的に検討すると,従来行ってきた講義では教育効果として表れにくいESDのめざす能力が育成されていると考えられた。ESDの教育手法として,これまで本校で実践されてきたPBLを導入することで,環境省から課題として挙がっていた「1.参加型学習等の実践的な人材育成ができる指導者が不足していること」に対応できたと考える。指導者がPBLにおける認知の仕組みを充分に理解し,PBL教授法のスキルアップを図ることが重要である。
 また,高専では伝統的に,教員と技術職員が車の両輪のごとく技術者教育を行ってきた。この特長を活かしたティーム・ティーチングで,授業の企画・準備段階から教職員でチームを組んで行うことにより,環境省から課題として挙がっていた「3.大学が外部の組織と連携していくためのマッチングの負担が大きいこと」にも対応できたといえる。
図3 地域に役立つものづくり授業の概略図

図4 平成20年度 最終成果発表会での評価結果(47名による総合評価)

ESDテキストブック「未来をつくる『人』を育てよう」(ESD-J発行)より抜粋
学生の感想:
 今までは受身の授業ばかりで学ぶことが面白いとなかなか思えなかったけど,この授業は自分たちの興味で進め方を決めることができるし,地域の人たちの話を聞くと視野が広がり,やる気がでます。「地域の役に立っている」という実感があるし,ものを作っていても相手の顔が見えるので何とかもっと良いものを・・・と思います。チーム内での意見の食い違いなどもあるけれど,何とか調整して進めました。話すことが苦手だったけど,その大切さにも気づきました。
授業担当 本江哲行より:
 地域社会をリードするNPOの思いや,出会った人,ひとりひとりのニーズに合わせてものを創ることで,これまで自覚に乏しかった学生が「自分も社会をつくっている1人なんだ!」という実感を持ち始めているようです。学校という閉じた場を飛び出し,社会と接して人々の生きた知恵を形にしていくこと,そのプロセスにおけるコミュニケーションが,学生をしっかりと成長させていると感じています。一番大切なのは,授業の最初の頃に学生のモチベーションを上げるファシリテーション。与えられることに慣れている学生の,自分の心と頭で考える自発性を引き出す作業は,面白くもあり,ちょっと大変です。
萩浦保育園 社会福祉法人富山YMCA福祉会理事長 島田茂さんより:
 学生との触れ合いは,普段私たち大人が気づかないことに気づかせてくれ,その自由な発想から世界にひとつ,ここにしかないものを創ってくれることを本当に嬉しく思います。子どもたちの心を理解しようと努力し,いろいろな人たちの意見を聞きながら創ってくれるそのプロセスがとてもいい。だからこそ,子どもたちも大事に愛着をもっておもちゃに触れています。わたしも学生から刺激をもらっています。
NPO法人 デイサービスセンターおらとこ 理事長 野入美津恵さんより:
 施設で使えるリハビリ用おもちゃのリクエストを学生さんにしました。学生さんからは「こんなふうに考えました!」という提案をもらい,またみんなで「あーでもない,こーでもない,もっとこういうふうがいい」と言って試作品ができてきています。答えをみつけるまでの多様な考え方と関わり方,教科書にはないひとつの答えにこだわらないそのプロセスを楽しみながら学び合い,育ち合っています。
表1 平成20年度の内容
月日 授業内容と詳細 活動の様子
4/9 ガイダンス,グルーピング
自己分析
相互紹介
成功するためのグルーピング
4/16 事業所の紹介,グループワーク
会議技法や合意形成などのコミュニケーション技法の演習,議論の演習
グループ紹介シートの作成
4/23 第1回事業所訪問
4/30 グループワーク
「PCM」や「力の分析」などの課題の明確化に関する技法の演習
5/2 事業所訪問,グループワーク
課題の抽出と明確化
5/9 事業所訪問,グループワーク,課題の抽出と明確化
5/21 企業の技術開発から学ぶ
企業の方2名を招いて講演と意見交換
ディスカッション
専攻科2年生を交えたディスカッション
5/28 グループワーク,中間発表会の準備,指導チームとのディスカッション
6/4 第1回中間発表・評価会
6/11 グループワーク,企画書の作成,指導チームとのディスカッション
6/18 グループワーク
企画書の作成・提出
指導チームとのディスカッション
コンセンサステストによる自己分析
6/25 グループワーク,指導チームとのディスカッション,デザイン図の作成
7/2 知的財産について講義
演習(電子情報図書館の検索実習)
パテントコンテスト応募要領の説明
7/16 グループワーク,素材購入の方法について説明,ものづくり工房の使用方法の説明,模型またはプロトモデルの製作
9/3 グループワーク,模型またはプロトモデルの製作,指導チームとのディスカッション,「自分が今,学ぶべきこと」の提出
9/10 第2回中間発表・評価会
9/17 グループワーク
製作・改良
指導チームや事業所とのディスカッション
9/24 グループワーク
製作・改良
指導チームや事業所とのディスカッション
10~12月 グループワーク
製作・改良
指導チームや事業所とのディスカッション
1月 グループワーク
製作
指導チームや事業所とのディスカッション
1/28 最終成果発表会
スライド資料による口頭発表
製品展示会

2月初旬 総合評価のためのヒアリング 30分/班
2月 グループワーク
製作(最終仕上げ)
3月 贈呈
各事業所へ納品
図5 最終成果発表会 プレゼンテーション資料-1
(保育園児用の多人数で遊べるユニークな遊具「消防車型水鉄砲」)

図6 最終成果発表会 製品説明資料
(保育園児用の多人数で遊べるユニークな遊具「消防車型水鉄砲」)

2010.2.26